こんにちは!かさけんです。
僕はTwitterで2021年4月から図解を用いて心リハ関連のツイートを投稿しています。
毎月恒例の「心リハの知識を深めよう」ということを目的として10月と11月間にツイートした2つの内容について詳しく解説したいと思います。
- 心不全の症状を考えるときに意識するポイント
- 低心拍出量を示唆する所見について
はじめまして!
ハートリハブログのかさけんとはるです。
ご訪問ありがとうございます。
このブログは「心リハをたくさんの人に知ってもらいたい!」を
目的に夫婦で協力して作成しています。
急性期総合病院で心リハをメインに理学療法士として働いている。
心リハを始めて7年、心リハ指導士の資格取得をして5年。
2020年に心不全療養指導士の資格を取得。
はるの夫。記事の主な作成者。
看護師で混合病棟に6年在籍していた。
かさけんの妻。記事の編集やブログ運営をしている。
心不全の症状を意識するポイント
心不全の定義
なんらかの心臓機能異常、すなわち心臓に基質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版) (j-circ.or.jp) p10
この定義には心不全の症状として呼吸困難感、倦怠感、浮腫という言葉が出ていますが、心不全の症状はこの3つ以外にも数多くあります。
その多様な症状を理解する上で知っておきたいポイントが左心不全と右心不全、前方障害と後方障害についてです。
血液の循環は上の図のように体循環から右心系、肺循環を通り、左心系から再び体循環に流れていきます。
心不全の症状は右心系、左心系のそれぞれから前方にある臓器(右心系であれば肺循環や左室、左心系であれば内臓や脳、筋肉など)への血流が不足する前方障害と、後方にある臓器(右心系であれば静脈系、左心系であれば肺循環)に血液がうっ滞することにより生じる後方障害に分けることができます。
ではそれぞれどのような症状が出現するのかまとめていきます。
左心不全 前方障害
左心不全の前方障害は左心系から全身の臓器に血液、酸素を十分に拍出できていない状態を指します。
- 脳血流低下による意識障害
- 腎血流低下による尿量低下や体重増加
- 末梢循環不全による末梢温度低下
- 骨格筋への血流低下による疲労感や運動耐容能低下
左心不全 後方障害
左心不全の後方障害は、左心系から見た後ろ側にある肺循環に血液がうっ滞することによる肺うっ血の症状を指します。
- 夜間咳嗽
- 労作時呼吸困難感
- 夜間突発性呼吸困難
- 起座呼吸
- 喘鳴
- 血性泡沫性痰
右心不全 後方障害
右心不全の後方障害は右心系から見た後ろにあたる体循環に血液がうっ滞していることによる症状を指します。
- 頸静脈怒張
- 漏出性胸水
- 食欲不振
- 肝浮腫
- 腹部膨満感
- 下腿浮腫
※右心不全の前方障害は右心系から肺循環、左心系に血液を拍出できていないという事を考えると左心不全の前方障害と同様の症状が生じると考えることができます。
左心不全と右心不全、前方障害と後方障害ではどのような症状が生じるのかまとめましたが、実際の患者さんではこれらが混在して生じている場合も少なくありません。
例えば左心不全の後方障害を呈していて
左室拡張末期圧上昇→左房圧上昇→肺静脈圧上昇→肺動脈圧上昇→右室拡張末期圧上昇→右房圧上昇→中心静脈圧上昇→右心不全の後方障害
のような左心不全に右心不全を併発するような状態もあります。
また、日本の急性心不全で入院された患者さんが入院時にどのような症状をきたしていたのかを調べた報告があります。
発作性夜間呼吸困難 | 55.4% |
起座呼吸 | 68.5% |
水泡音 | 77.6% |
病的Ⅲ音 | 40.5% |
頸静脈怒張 | 61.3% |
下腿浮腫 | 67.7% |
四肢冷感 | 23.3% |
これらを見てもわかる通り、心不全だからといってすべての症状が出現するわけではないという事です。
一番最初に説明した心不全の定義にも出てきた浮腫は67.7%の患者さんに生じていますが、約30%の患者さんは浮腫を生じていない心不全であることが分かります。
腎機能障害、肝機能障害、低栄養でも浮腫を生じる可能性はあります。
また左心不全の前方障害のみであれば右心不全の後方障害の症状の浮腫は生じない可能性もあります。
内部障害、特に循環器系の疾患は病気自体を直接目にすることができない分、どのような症状が生じるのかという事を注意深く観察することを常に意識しています。これらを考えるには説明した左心不全と右心不全、前方障害と後方障害について整理する必要があります。
低心拍出量を示唆する所見
心不全の主な症状は血液の循環が滞る「うっ血」と血液が全身に行き渡らない「低灌流」の2つに分けることができます。
ここでは低灌流についてご説明しますが、まずは低灌流と低心拍出という言葉の理解をする必要があります。
- 低灌流とは全身への血液の供給が不十分であること
- 低心拍出は心拍出量が低下しているということ
つまり全身の組織側から見た(低灌流)のか、心臓から見た(低心拍出)のかという表現の違いです。
心不全の代償機構については心不全とはという記事にまとめていますのでその記事をご参照ください。
では低心拍出の状態を示唆する所見をまとめていきたいと思います。
血圧
一番分かりやすい所見は血圧だと思います。
血圧は心拍出量と末梢血管抵抗の積で求められるため心拍出量が低下すれば血圧も低下します。
そのような場合には血圧を低下させないように末梢血管抵抗を上昇させますが、末梢血管抵抗が増加しなければ血圧が低下してしまいます。
低灌流所見で重要なのが平均血圧の概念です。
平均血圧 拡張期血圧+脈圧÷3
で求められ、臓器灌流の指標となります。
臓器灌流とは体内の各臓器に血液が行き届いているのかということを指します。
心臓は全身の臓器に酸素を届けるために動き続けますが、この平均血圧が低下しているという事は全身の臓器が酸素不足となっているということなので、各臓器の働きに支障が出てきます。
心臓が原因でショック状態となる心原性ショックとなり、脳血流低下による意識障害、肝臓への血流低下による肝機能障害、腎臓への血流低下による腎機能低下などが生じる可能性があります。平均血圧>65mmHgということが個体差もありますが1つの目安となります。
末梢冷感・チアノーゼ
続いては末梢冷感、チアノーゼです。
チアノーゼとは皮膚または粘膜が青みを帯びた青紫色になる状態です。
これは末梢組織の酸素飽和度低下による還元ヘモグロビンが増加することが原因となります。
心臓が由来の低灌流以外にも呼吸器疾患による低酸素血症による動脈血酸素飽和度が低下しても生じることがあります。
全身まで血液を送り届けることができない低灌流状態だと心臓から遠い手や足に冷感を生じることがあります。
脈圧
脈圧
脈圧は(収縮期血圧―拡張期血圧)÷収縮期血圧で求められます。
脈圧が25%以下の場合、侵襲的な検査で求められる心係数が2.2L/min/㎡以下であるということが報告されていて低灌流を示唆する所見です。
混合静脈血酸素飽和度
末梢組織の灌流が低下すれば少ない酸素を効率よく摂取して組織の酸素飽和度を維持しようとします。
その結果、静脈に含まれる酸素飽和度が低下する所見です。
血中乳酸値
血中乳酸値
末梢組織が酸素不足の状態でATPを産生する嫌気性代謝ではその過程で乳酸が産生されます。つまり乳酸値が高いという事は低灌流状態であるという事を指します。
Velocity-time integral (VTI)
心エコー図検査での駆出血流波形から1心拍あたりの時間速度積分値が1回心拍出量を反映していると言われています。
詳細についてはDrぷー先生が分かりやすく解説いただきましたので参照ください。
腎機能悪化
腎血流が減少することによって腎機能が低下することも低心拍出を示唆する所見の1つです。
低Na血症
心拍出量が低下すると腎臓からの尿の排泄を制限することで血液量を増やそうとする代償機構が働きます。すると水分量が多く、結果として血中のNa濃度が薄く(希釈)なりNa濃度が低くなります。低Na血症は135mEq/L以下のことを指します。
しかし、心不全の低灌流との鑑別が必要な病態もあります。
心不全の低灌流と鑑別が必要な病態
交感神経の活性化
交感神経が活性化すると末梢血管抵抗が増加するため、末梢組織への血流が低下する場合があります。
心拍出量が保たれていても末梢冷感などの低灌流所見を生じることもあり注意が必要です。
甲状腺機能低下症
甲状腺の機能が低下すると全身の代謝が低下することによって無気力、易疲労性、全身性浮腫、末梢冷感などの症状が生じる場合があります。
レイノー現象
レイノー現象は冷気に触れた時や精神的に緊張したときに、末梢の小動脈が収縮することによって血流が一時的に悪化する状態のことです。指先に色調変化、冷感を生じることが典型的な症状です。
出血性ショック
全身のどこかで多量出血があるとその部位への血流を維持するために他の部位の血流を低下させる代償が働きます。そのような場合も低灌流所見がみられることもあります。
動脈閉塞
ある部位の動脈が閉塞しているとその遠位の臓器は血流障害が生じるため低灌流所見が生じる場合があります。
まとめ
低心拍出を示唆する所見は数多く挙げられます。
また低心拍出状態でもすべての症状が出現するとは限らず、低心拍出状態でなくても血圧低下や末梢冷感などの症状を生じる場合もあります。
身体所見からより簡便に病態を評価するために頻用されているNohria-Stevenson分類はうっ血所見と低灌流に基づいた心不全患者のリスク評価として優れている評価法です。
この低灌流所見だけでも頭に入れておくことが望ましいと思います。
最後に
最後までご覧いただきありがとうございました。
10月、11月にツイートした内容について詳しく解説してみました。
Twitterでは一目で分かりやすく臨床現場で実践してもらえるようまとめているので分かりにくい点もあるかもしれません。
もう少し深く知りたい、心リハに興味がある方、心リハを行っている方向けに毎月続けていきたいと思いますので宜しくお願いします。
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