こんにちは!かさけんです。
「心疾患患者の運動耐容能を評価しましょう」という言葉は心臓リハビリテーションの中でよく聞かれる言葉です。
運動耐容能とは、その人が運動に耐えることができる最大値、最大運動能力のことです。
内容が少し難しくボリュームのある内容になったので「前編」と「後編」の二つの記事に分けました。
今回この記事(前編)では基本的な運動耐容能についてや、運動負荷試験の目的などについて図式などを用いて分かりやすく説明しています。
↓後編では「心肺運動負荷試験(CPX)」についてまとめています。
はじめまして!
ハートリハブログのかさけんとはるです。
ご訪問ありがとうございます。
このブログは「心リハをたくさんの人に知ってもらいたい!」を
目的に夫婦で協力して作成しています。
急性期総合病院で心リハをメインに理学療法士として働いている。
心リハを始めて7年、心リハ指導士の資格取得をして5年。
2020年に心不全療養指導士の資格を取得。
こよなく心臓を愛している。はるの夫。
記事の主な作成者。
看護師で混合病棟に6年在籍していた。かさけんの妻。
記事の編集やブログ運営をしている。
はじめに
心血管疾患におけるリハビリテーションのガイドラインには、「心肺運動負荷試験(CPX)により運動耐容能を評価して,重症度からみたリスクに基づいて運動処方を作成し,治療や心リハの方針を立てる」と記載されています。
JCS2021_Makita.pdf (j-circ.or.jp) p17
運動療法は心臓リハビリテーションの中心的な役割です。
その運動療法を行う前に心肺運動負荷試験などの運動負荷試験で運動耐容能を評価する必要があります。
つまり、心臓リハビリテーションを行う上で運動耐容能、運動負荷試験の知識は必要不可欠となります。
まずは運動耐容能についてご説明します。
運動耐容能とは
運動耐容能は「身体運動負荷に耐えるために必要な、呼吸や心血管系の能力に関する機能」と言われています。
言い換えると、その人が運動に耐えることができる最大値、最大運動能力と言えます。
運動を長時間継続するためには筋肉に酸素を送り続けることが必要です。
呼吸によって肺で酸素を取り込んで心臓から全身の骨格筋に酸素を送り届け、筋肉で酸素をエネルギーとして利用し、筋肉で産生された二酸化炭素を心臓、肺を通して体外に排泄する必要があります。
この経路のどこが障害されていても長時間の運動は実施できません。
つまり肺、心臓、筋肉の3つの歯車が上手く回り続けないと運動は継続できません。
この3つの歯車が上手く回っていれば、運動耐容能は高くなります。
例えば、肺や心臓の機能が保たれていても筋力が低ければ、運動耐容能としては低くくなります。
逆に肺や心臓の機能が低くても、筋力が保たれていれば運動耐容能の維持向上を図ることが可能です。
後編で説明する心肺運動負荷試験の第一人者であるワッサーマン先生が作成したワッサーマンの歯車という概念で考えると分かりやすいです。
心疾患の患者さんで運動耐容能の評価が重要であると言われている理由として、運動耐容能が低い人は心疾患による再発や死亡率が上昇すると報告されているからです。
また健常人でも同様のことが言え、運動耐容能が高い人は生命予後が良いと言われています。
つまり元気に運動できる人、運動に耐えうるだけの能力がある人は様々な負荷に耐えうることができるので病気になりにくい、長生きする可能性が高いと考えることができます。
運動耐容能を評価することは心臓リハビリテーションを実施するうえで必要不可欠です。
運動耐容能・筋力をつけておくことは、筋肉を貯めて病気などのイベントがあった時にも耐えられるように「貯筋」しておくことは重要です。
運動耐容能を評価するには運動負荷試験を実施する必要があります。
次にその運動負荷試験はどのような目的で行われるかについてご説明します。
運動負荷試験の目的
運動負荷試験の目的は、最大運動時に心臓や筋肉がどの程度まで耐えられるのか、またどの程度の運動負荷量ならば安全に運動できるのかを明らかにすることです。
具体的に大きく分けて以下の3つに分類できます。
- 運動耐容能の評価
- 心筋虚血の判定
- 安全で効果的な運動処方の設定
運動負荷試験では運動耐容能を評価する目的以外に、臨床現場では心筋虚血の評価に用いられる場合が多いです。
運動という負荷をかけると全身の筋肉に酸素を送る必要があるため、心臓は1回拍出量や心拍数を増加させます。
その結果、心臓の筋肉に酸素を送っている冠動脈に狭窄があれば心筋が必要な酸素を送ることができないため、心筋虚血が生じ心電図変化や胸痛などの症状が出現します。
どの程度の負荷量で虚血が生じるのか評価し、カテーテルによる治療が必要なのか、薬剤調整で経過を見るのか、心臓リハビリテーションを行う必要があるのかを判断します。
また、運動負荷試験の結果から求められた安全で効率的な運動負荷量を指導する目的もあります。
運動負荷試験を行う前には、実施する目的を必ず確認する必要があります。
どのような疾患を疑って運動負荷試験を行なっているのか、どのような患者さんの運動負荷試験を行うのか把握することも重要です。
次に運動負荷試験の方法についてです。
運動負荷試験の方法
運動負荷試験の方法は主に以下の5つが挙げられます。
- マスターダブル負荷心電図試験
- トレッドミル負荷心電図試験
- 運動負荷心エコー検査
- 運動負荷心筋シンチグラフィー
- 心肺運動負荷試験
運動負荷をかけておこなう虚血の評価は、階段昇降を繰り返すマスターダブル負荷心電図試験やトレッドミル負荷心電図試験
運動中、運動直後の心臓の壁運動の変化や弁膜症の重症度などを評価は、運動負荷心エコー検査
心筋虚血の有無や範囲を画像で評価は運動負荷シンチグラフィー検査
運動負荷心電図に呼気ガス分析を併用して行う検査が心肺運動負荷試験です。
何を明らかにしたいのかで選択する運動負荷試験は異なります。
それぞれの特徴を把握することが重要です。
運動負荷試験の安全性
心疾患の患者さんに過度な運動負荷をかけてもよいのか、という疑問を持たれる方も多いと思いますが、心疾患の患者さんに対する運動負荷試験の安全性は確立しています。
- 運動負荷試験中の死亡事故1/264,000
- 除細動器使用 1/57,000
- 心筋梗塞発症などの緊急入院 1/43,000
運動という身体的負荷をかけるので死亡事故や除細動器の使用、緊急入院などが発生する可能性はゼロではありません。
万が一の場合に備えて急変時の薬剤などは必須ですし、急変時の対応に備えたシュミレーションをしておくことは大事です。
運動負荷試験は安全な検査ではありますが、運動負荷試験を行ってはいけない疾患や病態、中止基準に沿って行わないと有害事象が発生する可能性があるため、運動負荷試験の禁忌、中止基準は必ず頭に入れておく必要があります。
次はその運動負荷試験における禁忌や中止基準についてご説明します。
運動負荷試験の禁忌・中止基準
絶対的禁忌は運動負荷試験を行ってはいけない疾患や病態です。
相対的禁忌は検査の利点が運動のリスクを上回る場合には検査を実施しても良いとされます。
運動負荷に伴い状態が悪化する可能性があるため、安全な運動処方や病態を把握するために十分に注意しながら行う必要があります。
僕が心臓リハビリテーションを始めたころは白衣のポケットに入るノートサイズに運動負荷試験の禁忌項目をまとめて現場で活用していました。
主治医から運動負荷試験の絶対的禁忌の疾患や病態の患者さんの運動負荷試験の指示があるかもしれません。
禁忌項目を知らずに運動負荷試験を行って有害事象が起きないように、禁忌項目の理解は必須です。
運動負荷試験の中止基準は数多く設定されています。
心肺運動負荷試験中は心電図モニタを装着し、血圧を1分毎に測定するので負荷試験装置を確認することと、患者さんの顔色や全体の様子を把握することも重要です。
運動負荷試験中にノイズや電極外れによって心電図の記録不良が生じることには注意が必要です。発汗によりシールが外れたり、骨格筋の筋収縮により心電図が乱れることも少なくありません。
心電図の記録がうまくできていない時に中止基準に該当する症状や反応が生じるかもしれないので、記録不良の場合には安全第一に検査を中止することも必要かもしれません。
僕の印象では大多数の患者さんは、心臓や肺の機能に問題が生じる前に下肢疲労で運動負荷試験を終了する場合が多いです。
心臓の機能が原因で運動負荷試験を中止する場合は、心筋虚血が疑われる心電図変化や血圧の上昇不良などが生じやすいので、運動負荷中の心電図や血圧の確認は重要です。
運動負荷試験を行ってもよい病態や時期なのかを把握して、適切なところで運動負荷試験を終了、中止することが安全に運動負荷試験を行うにあたり必要です。
まとめ
今回は心臓リハビリテーションを行う上で理解する必要がある、運動耐容能と運動負荷試験について解説しました。
どの心疾患患者さんにも運動負荷試験を実施して運動耐容能を評価することは必要不可欠です。
運動負荷試験に基づいた運動処方・運動耐容能が、なぜ低下しているのかを読み解くことで運動時の心臓の反応が分かるかもしれません。
この記事を読んで安全に適切な運動負荷試験を実施できれば嬉しく思います。
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