こんにちは!かさけんです。
前回の記事(前編)では「運動耐容能」「運動負荷試験」についてお話ししました。
僕自身、最初は心肺運動負荷試験(CPX)に対して生理学的要素や専門用語が多く、難しい印象がありました。
しかし理解できるようになると、心リハをするのが楽しく感じるようになりました。
この記事でCPXについて知っていただけるきっかけになったら嬉しいです。
今回この記事(後編)では、「心肺運動負荷試験(CPX)とは?」やCPXを理解する上で必要な代表的な指標について詳しくまとめています。
はじめまして!
ハートリハブログのかさけんとはるです。
ご訪問ありがとうございます。
このブログは
「心リハをたくさんの人に知ってもらいたい!」
を目的に夫婦で協力して作成しています。
急性期総合病院で心リハをメインに理学療法士として働いている。
心リハを始めて7年、心リハ指導士の資格取得をして5年。
2020年に心不全療養指導士の資格を取得。
こよなく心臓を愛している。はるの夫。
記事の主な作成者。
看護師で混合病棟に6年在籍していた。かさけんの妻。
記事の編集やブログ運営をしている。
はじめに
心肺運動負荷試験
Cardiopulmonary exercise testing (CPX)
右(下記)のイラストは心肺運動負荷試験を実際に行っているときの様子です。
マスクを装着して、心電図や血圧を測定しながら運動を行っています。
CPXを実施して得られるグラフが以下のようなものになります。
折れ線グラフがたくさんあるし、見慣れない単語の表記で難しそう…
と感じる方が多いと思います。
心肺運動負荷試験とは何か、心肺運動負荷試験から求められる指標について説明したいと思います。
まずは「心肺運動負荷試験(CPX)とは」についてご説明していきます。
心肺運動負荷試験(CPX)とは
心肺運動負荷試験(CPX)は、心血管系と呼吸器系の機能を運動中の呼気ガス分析により評価する運動負荷試験であり、運動耐容能評価の標準検査と言われています。
従来は連続して採血を行わないと、運動負荷中の心血管系や呼吸器系の反応を評価できませんでした。
しかし、呼気ガス分析を行うことによって運動中の心血管系や呼吸器系の反応を非侵襲的に推測して評価することが可能となりました。
つまり心肺運動負荷試験(CPX)は運動負荷中の心臓、肺、筋肉からの情報を呼気ガス分析から推定する運動負荷試験です。
具体的には、自転車エルゴメータやトレッドミルを用いて限界までの運動負荷をかけます。
運動負荷中の心電図を連続でモニターしながら、呼気ガス分析のセンサーから酸素摂取量、二酸化炭素排泄量、1回換気量、呼吸数を測定し、様々な指標を推定しています。
次に心肺運動負荷試験(CPX)の方法についてご説明します。
心肺運動負荷試験(CPX)の方法
- 運動負荷機器に乗ってもらう
- 12誘導心電図モニターを装着
- 呼気ガス分析マスクを装着
- 血圧計を装着
呼気ガス分析マスクとは、イラストからもわかるように呼気ガス分析を行うためのセンサーがついたフェイスマスクのことです。
そのセンサーから安静時、運動負荷中の酸素摂取量、二酸化炭素排泄量、1回換気量、呼吸数を測定し、様々な指標を推定しています。
上記内容の準備が整えば運動負荷を開始します。
開始後、医療従事者は下記3点に注意しながら観察を行います。
- 12誘導心電図と血圧の値を常時確認
- トレンドグラフの確認
- 患者さん自身の体力の限界 or 中止基準該当 → 運動負荷終了
心電図のチェックポイントは、前編で説明した中止基準(虚血性ST変化や調律異常など)に該当がないかを確認します。
血圧のチェックポイントは、収縮期血圧が250㎜Hg以上または10㎜Hg以上の低下がないかを確認します。
運動負荷は症候限界性に実施します。これは運動負荷量が増加していき、「もう漕げない」という患者さん自身の限界、もしくは運動負荷試験の中止基準に該当するまで行う、ということを意味します。
次にトレンドグラフについて簡単にご説明します。
・トレンドグラフについて
CPX実施中での呼気ガス分析のマスクから実際に得られるグラフが下記のグラフになります。
この症例では、自転車エルゴメータを用いてCPXを行いました。
このグラフでは横軸が時間(分単位)を、縦軸に様々な指標を示しています。
- 水色「HR」は12誘導心電図から測定した心拍数
- 黄色「R」は呼吸商(二酸化炭素排泄量を酸素摂取量で割った指標)
- 黒色「VO2」は酸素摂取量
- 緑色「VE/VO2」は分時期換気量を酸素摂取量で割った指標
- 紫色「VE/VCO2」は分時換気量を二酸化炭素排泄量で割った指標
- 赤色「LOAD」は運動負荷量
この患者さんでは運動前の安静時の呼気ガスのデータを3分間測定しています。
3分を過ぎるとWという表記がありそこからウォーミングアップとして負荷量0(=0W)で3分間自転車を漕ぎます。
安静時から6分後(ウォーミングアップ開始3分後)から1分間に20Wずつ段階的に運動負荷量を増加させます。
最終的に安静時から約18分後に運動は終了していることが分かります。
次は具体的にCPXで求められる代表的な指標の3つについて解説していきたいと思います。
心肺運動負荷試験から得られる代表的な指標
CPXで求められる指標は多数ありますが、ここでは代表的な指標を3つをご紹介したいと思います。
- Peak VO2(運動耐容能を評価するのに必要な指標)
- AT(運動処方に必要な指標)
- VE/VCO2(換気効率の評価に必要な指標)
まずは「 Peak VO2 」について解説します。
・Peak VO2(最高酸素摂取量)
Peak VO2は運動負荷試験の終点での酸素摂取量のことです。標準的な運動耐容能の指標として確立しています。
赤の実戦で示したところが運動終点になります。グラフ黒線で酸素摂取量が示されています。
つまりこの患者さんのpeakVO2(運動終点の酸素摂取量)は約2,700ml/minということがわかります。
Peak VO2は性別・年齢・体重に応じた標準値が心肺運動負荷試験の機器に組み込まれているため、そのPeak VO2値が標準に対して高いのか低いのかが自動で表記されます。
わかりやすく数値化して比較すると、
- 患者 年齢25歳 体重60㎏ peakVO2 2,700ml/min
- 標準値 年齢25歳 体重60㎏ peakVO2 2,129ml/min
この患者さんは、標準より値が上回っているため運動耐容能が良いと判断できます。
酸素摂取量VO2はFickの式を用いて算出することができます。
VO2(酸素摂取量)=心拍出量×動静脈酸素含有量較差
動静脈酸素含有量較差とは、動脈血に含まれる酸素含有量から静脈血に含まれる酸素含有量を引いた値です。
動脈酸素含有量較差=動脈血に含まれる酸素含有量-静脈血に含まれる酸素含有量
動脈酸素含有量較差は、運動の際にどれだけ骨格筋が酸素を消費しているかを示しています。
つまりpeak VO2は最大運動負荷時の心拍出量と動静脈酸素含有量較差の積で求めることができるので、心機能と骨格筋を中心とした末梢組織の両方の影響を受ける数値であることが分かります。
運動負荷に伴う心拍出量の増加、換気量の増加、骨格筋での酸素利用能など総合的な指標がPeak VO2です。
心臓のポンプ機能がかなり低下していても、日常生活を支障なく送ることができる症例もあります。少ない心拍出量の中で骨格筋で上手に酸素を利用することができているためです。
つまりPeak VO2を増加させるためには、もちろん心臓から全身に血液を送り届ける必要がありますが、運動に必要な骨格筋で酸素を効率よく使用することが重要です。
次は 心肺運動負荷試験から得られる代表的な指標2つめの「AT」についてご説明します。
・AT(嫌気性代謝閾値)
ATは嫌気性代謝閾値と言われています。運動処方の作成のためにATの算出は重要です。
筋肉を動かすためのエネルギーを産生する方法として好気的代謝と嫌気的代謝が挙げられます。
- 好気的代謝とは、主に酸素を使ってエネルギーを産生する方法
- 嫌気的代謝とは、主に糖質を使用してエネルギー産生をする方法
運動負荷量が低いうちは好気的代謝だけで骨格筋を動かすためのエネルギー産生をまかなうことができますが、運動負荷量が高くなると好気的代謝だけではエネルギー産生が不十分となるため嫌気的代謝が加わってエネルギーを産生する必要があります。
この好気的代謝に嫌気的代謝が加わる直前の酸素摂取量のことをATと呼びます。
CPXでのAT決定法は多数ありますが、その中で代表的なV-slope法についてご説明します。
V-slope法とは、酸素摂取量と二酸化炭素排泄量の推移のグラフからATを求める方法のことです。
- 好気的代謝:酸素摂取量=二酸化炭素排泄量
- 好気的代謝+嫌気的代謝:酸素摂取量<二酸化炭素排泄量
運動負荷量に伴い、酸素摂取量と二酸化炭素排泄量は共に増加していきます。
しかし好気的代謝に嫌気的代謝が加わると二酸化炭素排泄量が酸素摂取量より増加します。
下のグラフは縦軸X(VO2)酸素摂取量に、横軸Y(VCO2)に二酸化炭素排泄量を示しています。
軽い運動程度では酸素摂取量と二酸化炭素排泄量は同じように増加していきます。
運動強度が増し、二酸化炭素排泄量が酸素摂取量より増加した(好気代謝的代謝に嫌気的代謝が加わった)点をATと呼びます。(上記右図グラフの赤丸がATです。)
その他にもATを決定する方法はあるので、詳しく知りたい方は本を参考にしてもらえればと思います。
AT以上の運動強度、つまり嫌気的代謝が加わる運動強度は心負荷をより増大させたり、不整脈の出現頻度の増加、心筋虚血の誘発など危ない可能性があります。
運動処方での運動負荷量についてはこのATを基準に設定されます。
安全な運動療法を行う上でATの評価、理解は必須です。
次は 心肺運動負荷試験から得られる代表的な指標3つめの「VE/VCO2 slope」についてご説明します。
・VE/VCO2 slope( 運動時の換気効率 )
VE/VCO2 slopeは運動時の換気効率の指標です。つまり、一定の二酸化炭素を排出するためにどの程度の換気量が必要なのかを示しています。
換気量 = 1回の吸気時に取り入れる空気量 × 呼吸数
具体的な病態を例にしてご説明します。
心不全で肺うっ血がある患者さんのガス交換時(肺胞)をイラスト化したものが右図(下記)になります。
酸素を取り入れても肺胞に水が貯留しているため、上手く二酸化炭素が排出できず、貯留しています。
そのため他の正常な肺胞が二酸化炭素を排出させようとして、呼吸数を増やして補おうと働きます。
つまり、換気量を増加させて二酸化炭素を排出させる反応が起こります。
この換気効率( VE/VCO2 slope )について、下記右のグラフから読み解けます。
縦軸X(VCO2)は分時換気量、横軸Y(VE)は二酸化炭素排泄量を示しています。
分時換気量と二酸化炭素排泄量が一定量であれば、点線のように45度もしくは黒線のように45度以下の角度でグラフが記録されていきます。
しかし赤線のような変動の場合、二酸化炭素量を排泄するために分時換気量が増大していることを示しており45度以上の傾きに変動しています。
この変動のように傾きが大きくなれば換気効率が低下していることを指します。
上記では、換気血流比不均衡(肺うっ血)を例にしてご説明しました。
他にも要因が挙げられます。心不全患者において換気効率が低下する要因は以下のことが考えられています。
- 換気血流比不均衡(肺うっ血)
- 浅くて速い呼吸による生理学的死腔の増加
- 呼吸中枢における二酸化炭素の感受性亢進
- 骨格筋などからの神経性反射の亢進
心不全が重症になればなるほどVE/VCO2 slopeは上昇すると言われます。
また、VE/VCO2 slopeはpeak VO2と同様に心不全患者の予後規定因子と言われています。
目安としてはVE/VCO2 slopeが34を超えると予後不良と言われています。
レントゲンや心エコーの検査では異常がなくても、VE/VCO2 slopeは高い値を示すこともあります。
VE/VCO2 slopeの概念は難しいですが、患者さんの息切れを評価するにあたり理解は必要です。
最後に
最後までご覧いただきありがとうございました。
今回後編では心肺運動負荷試験(CPX)についてまとめてみました。
代表的指標については、値や基準値に対する比率などは記録用紙に記載されますが、その数値がなぜ異常なのかを理解することで、他の検査結果と照らし合わせた分析ができ、その患者さんの症状の原因を知ることに繋がるため詳しく解説しました。
CPXについて理解することで患者さんにより良い心臓リハビリテーションを実施できる一助になれば嬉しいです。
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