こんにちは!かさけんです。
今回は心不全の症状の1つである息切れについての内容です。
僕が心リハを始めたころは、心不全患者さんの息切れの原因は肺うっ血だけだと思っていました。
しかし実際には、肺うっ血を生じていなくても息切れを生じている患者さんもいることを知りました。
息切れを生じる原因は数多く挙げられますが、そのメカニズムについて今回は大きく6つにまとめました。
はじめに
心不全の症状の1つに労作時の息切れがあります。
生活活動に影響を与える労作時の息切れは、心不全の患者さんが自覚する症状の中で最も重要視している症状だと言われています。
心不全の患者さんの労作時の息切れの原因の多くは肺うっ血による息切れです。
しかし、肺うっ血を生じていなくても労作時に息切れをきたす患者さんは少なくありません。
肺うっ血、息切れという言葉の意味や理解を深め、どのようなことが原因で心不全の患者さんが息切れを生じているのかを、理解することは患者さんの病態を把握することにも繋がります。
まずは息切れの定義についてまとめていきます。
息切れとは?
息切れは以下のように定義されています。
『呼吸時の不快な感覚という主観的な体験』
『息切れの中には、息が詰まる、空気がほしい、胸が圧迫される、呼吸が重い、呼吸が早いなどの13の種類の呼吸感覚が含まれる』
つまり、呼吸をするときにその人が感じた不快感を息切れと呼びます。
いくらパルスオキシメーターで測定したSpO₂が正常値でも90%以上の値となっていたとしても(低酸素血症ではない)、患者さんが息苦しいと感じていれば、息切れがあるという評価になるということです。あくまで主体は患者さんとなることには注意が必要です。
また、息切れと似た言葉で呼吸困難感という言葉がありますが、息切れと呼吸困難感は同義語です。
明らかに肩で息をしているような状態でも患者さんが苦しいと感じていなければ息切れではないということになります。
かなり前から息切れを生じていた方は、息切れがある状態を普通だと感じてしまい、その状態に慣れてしまうということも少なくありません。
次は、息切れの原因についてです。
息切れの原因について
心不全患者さんの息切れのメカニズムについて以下の6項目に大きく分けました。
- 肺うっ血による息切れ
- 左室、左房の圧上昇に起因する息切れ
- 呼吸回数増加
- 換気血流比不均衡
- 中枢呼吸化学受容体のCO2感受性亢進
- 骨格筋の神経性反射亢進
それでは、1つずつ解説していきます。
肺うっ血による息切れ
心不全患者さんの息切れの原因を1番イメージしやすいのがこの肺うっ血による息切れだと思います。
肺うっ血
肺静脈圧の上昇によって肺毛細血管レベルで血液量が増加している状態
心不全では心拍出量の低下を代償するために前負荷、後負荷を増やして心拍出量を増加させようとします。
そうすると左室拡張末期圧が上昇するため、左房圧、肺静脈圧さらに肺静脈の毛細血管内の圧力が上昇します。
この状態のことを肺うっ血といいます。
うっ血という言葉は血液が溜まるという意味なので、血液が肺静脈にたくさん溜まっている状態を指します。
この肺うっ血が進行すると肺水腫を引き起こしたり、胸水が貯留することになります。
この肺水腫と胸水という言葉は似たような言葉ですが、意味合いや病態が異なります。
- 肺水腫:肺うっ血が血管内から組織間質や肺胞に水分が移動した状態
- 胸水:胸膜内に水が溜まっている状態
まず肺水腫から説明していきます。
肺水腫とは
毛細血管内の内圧が高まり、膠質浸透圧より高まると(圧力が高い方から低い方へ水分の流れは生じる)、血管外に水分が漏れ出てきます。肺毛細血管に生じるのが肺水腫です。
血管外のスペースの事を間質と呼ぶので、間質部に水分が溜まり、間質性肺水腫となります。間質性肺水腫は肺静脈圧が20~30mmHgで生じると言われています。
圧力の上昇がさらに強くなり肺静脈圧が30mmHg以上となると、肺胞にも水分が漏れ出し、肺胞性肺水腫となります。
胸部X線画像検査で認められる蝶形像(Butterfly shadow)は肺胞性肺水腫の特徴的な所見です。
次は、胸水についてです。
胸水とは
胸水とは、肺を覆っている胸膜腔の中に水が溜まっている病態を指します。
胸水は健常人でもわずかに存在していて、肺と胸壁との間の抵抗を減らすために必要です。その胸水は壁側胸膜から産生され、臓側胸膜から吸収され、リンパ管に流れ込みます。
静水圧が上昇すると(心不全)リンパ液が体循環へ流入できなくなるため胸水の吸収が低下すること、リンパ管からの排出より胸膜腔への胸水産生が増加することで胸水が貯留します。
それぞれを踏まえて次は肺水腫・胸水による息切れについてです。
肺水腫・胸水による息切れについて
肺水腫を呈していると間質に水分が漏出している状態なので、肺胞での酸素と二酸化炭素の交換能が低下します。
その結果、酸素化されていない血液が動脈から全身へ送られるため低酸素血症を来します。すると呼吸回数が増加し、息切れを生じます。
胸水が貯留していると肺を覆う胸膜に水分が貯留するので肺を圧迫し、その結果、有効な換気量が低下し、呼吸回数が増加することにより息切れを生じます。
つまり、肺水腫と胸水の違いについては、肺水腫は肺の中が水浸しの状態で胸水は肺の外部に水分が貯留し肺を圧迫している状態ということになります。
よって、心不全が増悪すると肺水腫、胸水のどちらも生じる可能性があり、その結果、労作時の息切れが生じます。
次は、左室、左房の圧上昇に起因する息切れについてです。
左室、左房の圧上昇に起因する息切れ
心ポンプ機能が低下していると労作時に左室拡張末期圧が容易に上昇しやすくなります。
左室拡張末期圧が上昇すると、左房圧、肺静脈圧、肺毛細管楔入圧が上昇します。
その結果、傍毛細血管受容器が刺激され呼吸回数が増加します。
休息を取ったり、運動負荷量を低下させると左室拡張末期圧が低下するので息切れは軽減します。
休息で症状が改善する間は良いですが、症状が改善するまでの時間が延長したり、休息でも症状が改善しない場合は循環動態が破綻している可能性があります。
息切れの有無だけでなく症状改善までの時間を評価することも重要なポイントになります。
次は、呼吸回数増加による息切れについてです。
呼吸回数増加
呼吸回数も息切れに関係します。
呼吸回数が増加すれば、下の図のように分時換気量は変わらなくても肺胞換気量が低下します。
つまり、浅く速い呼吸は呼吸効率が悪く1回換気量や呼吸数が増加して息切れを感じることもあります。
呼吸回数を減らしてゆっくりと呼吸するよう促すだけで息切れが軽減する場合もあります。
次は、換気血流比不均衡による息切れについてです。
換気血流比不均衡
心不全の患者さんでは心拍出量が低下していることが多いことから、肺血流量も低下していることが多いです。
そのため、換気血流比不均衡が生じやすいと言われています。
肺胞には十分な換気量が届いているにも関わらず、血流自体が少ないので、肺胞換気量と肺血流のバランスが取れていないことを換気血流比不均衡と言います。
換気血流比不均衡の結果、生理学的死腔と1回換気量の比率で表される死腔換気率(VD/VT)が増加し、これは換気の効率が悪い状態です。この効率が悪いと、呼吸回数が増加、つまり換気が亢進し、息切れを感じるということに繋がります。
次は中枢呼吸化学受容体のCO2感受性亢進による息切れについてです。
中枢呼吸化学受容体のCO2感受性亢進
延髄にある中枢の化学受容器は、動脈血二酸化炭素分圧の上昇を感知し、換気を亢進させる作用があります。
二酸化炭素が体内から排泄されないと血中は酸性に傾きます(アシドーシス)
血中が酸性にならないように換気を亢進させて二酸化炭素を排泄しようとする働きが生じます。
通常ならば二酸化炭素分圧が上昇した分だけ換気を亢進させます。
動脈血二酸化炭素分圧が少し上昇しただけで換気が亢進(二酸化炭素の感受性が亢進)すると、1回換気量、呼吸回数が増加して息切れを生じやすくなります。
心不全患者では二酸化炭素の感受性が亢進している症例も多く、息切れの原因の1つとなっています。
次は、骨格筋の神経性反射亢進による息切れについてです。
骨格筋の神経性反射亢進
循環や換気の問題だけでなく骨格筋も息切れの原因の1つになり得ます。
心不全の患者さんでは慢性的な循環不全などが原因で骨格筋の萎縮や組成の変化があると言われています。
筋肉の組成では、遅筋であるTypeⅠ繊維が減少し速筋であるTypeⅡ繊維が増加します。
TypeⅡでは無酸素系のエネルギー産生が有意となるため、代謝物として二酸化炭素が産生されます。その二酸化炭素を体外に排泄するためには、換気を亢進させる必要があるため、換気が亢進します。
その他、機械受容器の刺激により息切れを感じる場合があります。
肺の膨張を感知し、呼吸困難を減弱させる肺伸展受容器、気道表面の機械的、科学的な刺激を感知し呼吸困難を増強させる肺刺激受容器、迷走神経の興奮によって呼吸困難を調整するC線維末端などがあります。
最後に
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
息切れの原因は様々で、1つが原因とは限らずに複数が影響して息切れを生じさせていることも多いのが実際です。
息切れは患者さんが感じる感覚なので、血圧や心拍数、酸素化の低下などがなくても「息がしんどい」と感じる患者さんに対して「異常所見がないので大丈夫です」と言いがちになりますが、どのような運動で生じやすいのか、呼吸数の増加はあるのか、呼吸方法の指導で息切れが軽減するのか評価して患者さんの訴えをしっかりと評価することを心がけています。
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