貧血と心不全って一見関係ないように見えて関係あるの?
どのような関係があるの?
貧血は心不全増悪因子の1つです。
また多くの割合で心不全患者に貧血は合併しています。
今回は心不全と貧血の関係性についてまとめていきます。
- 心不全患者に貧血が多い原因について
- 貧血が心不全に与える影響が分かる
- 貧血が心不全の増悪因子であることが分かる
貧血の定義
貧血の定義
「血液中のヘモグロビン濃度が低下した状態」
ヘモグロビンは酸素と結合して全身に酸素を運搬します。血液の中に酸素が多くあったとしても、ヘモグロビンと結合していないと臓器や筋肉へ酸素を送り届けることはできません。
血液中のヘモグロビン濃度が低下すると以下のような症状が出現します。
- 組織の低酸素による症状:倦怠感、めまい、頭痛
- 酸素欠乏の代償による症状:息切れ、動悸
- 赤血球の減少による症状:末梢血管の収縮(眼瞼結膜蒼白など)
ヘモグロビン濃度が低下した状態が貧血ですが、貧血の診断基準がこちらです。
- 男性 13.0g/dL未満
- 女性(小児6~14歳)12.0g/dL未満
- 妊婦(小児6ヵ月~6歳) 11g/mL未満
貧血によって様々な症状が出現します。
急激にヘモグロビン濃度が低下すれば自覚症状として出現しやすいですが、貧血の状態が長期間続いていると自覚症状を感じにくいことも多いです。
以上の内容をふまえて、次は心不全と貧血についてまとめていきます。
心不全と貧血について
まずは心不全患者における貧血の割合についてです。
急性心不全で入院した患者さんの約58%に貧血を合併していたという報告があります。
外来通院の心不全患者を対象とした研究でも約35%の患者に貧血を合併していたとの報告もあります。
これらの報告から貧血を合併している心不全患者はかなり多いという事が分かります。
では心不全患者さんが貧血を合併するとどうして良くないのでしょうか。
それは貧血を合併した心不全患者さんは死亡や心不全再入院のリスクを増加させると報告されているからです。
なぜ貧血が心不全再入院のリスクを高めるかというと、貧血は心負荷を増大させるからです。
貧血の状態では組織に運ばれるヘモグロビン(酸素)の量が少なくなるので、心収縮力や前負荷を増大させて組織に酸素を送る代償が働きます。その結果、心負荷が増大して心不全が増悪してしまうことに繋がります。
心臓の働きが弱ることによって心不全を来すことは容易に想像できますが、心臓の働きは正常でも心臓が頑張りすぎて心不全になってしまう事があるということを知った時に驚いたことを覚えています。
次は、心不全患者の貧血の原因についてです。
心不全患者の貧血の原因
貧血が生じる成因としては、赤血球の産生減少、または赤血球消失量の増大、またはその両者の合併によって生じます。
つまり、赤血球の消失量が産生量を上回った時に貧血が生じます。
赤血球の産生が減少するのは造血幹細胞の異常、エリスロポエチンの産生低下など、赤血球の消失が増大するのは出血などがあります。
では、心不全患者で貧血がなぜ生じやすいのかについて考えていきます。
心不全患者では体液貯留による血液希釈、慢性腎臓病合併によるエリスロポエチン生成低下、炎症性サイトカイン活性刺激による骨髄造血能低下、鉄欠乏など多くの因子が関与して貧血を生じやすいと考えられています。
数多くの原因がありますが、今回は下記2つについてまとめていきます。
- 血液希釈による貧血
- 腎不全による貧血(エリスロポエチン生成低下)
まずは、血液希釈による貧血についてです。
血液希釈による貧血
血液成分の約55%が水分などの血漿成分、約45%が赤血球や白血球などの細胞成分(血球)です。
心不全の状態では血液成分の中でも水分量(血漿成分)が増えます。
すると血液量が増えますが、水分量のみが増えますので、全体における血球の濃度、割合は低下するので貧血を呈しますが、これは見かけ上の貧血とも言われます。
心不全の治療に伴って体液量が減少すれば、血液の希釈による貧血、つまり、見かけ上の貧血は改善するということになります。
次は、腎不全に伴う貧血についてです。
腎不全に伴う貧血
心不全の患者さんで多いのがこの腎不全に伴う貧血、つまり腎性貧血です。
心臓と腎臓は密接な関連性がありますが、心臓と腎臓はともに貧血を呈しやすいです。
心不全・腎不全・貧血が互いに影響し合って悪循環を形成するという概念が心腎貧血症候群(Cardio-Renal Anemia Syndrome:CRAS)という概念があります。
心臓から見ると心拍出量が低下することで腎血流量が低下し、腎不全が進行し、貧血も進行。その結果、心負荷が増加するという悪循環に陥ります。心拍出量の低下が腎血流量の低下をもたらし、腎不全を進行させます。
腎血流量の低下によってエリスロポエチンの産生が低下します。エリスロポエチンは赤血球の産生を促すホルモンであるので、エリスロポエチンの産生が低下すると、赤血球が低下しますので、貧血を呈します。
これらのように心臓と腎臓、貧血は互いに密接な関係を持つことが分かります。
次は、貧血が心負荷に与える影響についてです。
貧血が心負荷に与える影響
貧血が心不全増悪のリスクになるという話について、少し詳しくまとめます。
簡単に言うと貧血になると細胞組織が低酸素になるため、細胞組織は酸素を得るために心拍出量を増やして受け取る酸素量が低下しないような代償機構が働きます。
つまり心負荷が増大するということです。
なぜ心負荷を増大させる必要があるのかを理解するには、酸素運搬量について考えると分かりやすいと思います。
酸素運搬量DO2(mL/分)は
1分間に運搬される酸素の量
動脈血酸素含有量CaO2(mL/dL)は
血液100ml中に含まれる酸素の量
酸素運搬量DO2
=心拍出量(L/分)×動脈血酸素含有量CaO2(mL/dL)×10
ヘモグロビンに結合および血液中に溶解した酸素量の和
動脈血酸素含有量CaO2
=(1.34×ヘモグロビン(g/dL)×動脈血酸素飽和度)+(0.003×動脈血酸素分圧)
動脈血中に溶解した酸素量はヘモグロビンで酸素量と比較して非常に小さいため、
動脈血液酸素含有量CaO2=1.34×ヘモグロビン×動脈血酸素飽和度といえます。
つまり、
酸素運搬量DO2=心拍出量×1.34×ヘモグロビン×動脈血酸素飽和度×10
と考えられます。
この式を見てわかることは全身への酸素運搬に関わる因子は
- 心拍出量
- ヘモグロビン
- 酸素化(=酸素飽和度SaO2)
ヘモグロビンが低下した状態で全身に送る酸素運搬量を一定に保とうとするのであれば、心拍出量を増加させる必要があります。また、肺うっ血などで酸素飽和度が低下した状態であればさらに心拍出量を増加させる必要があります。
例えばヘモグロビンが15gから7.5gに半減したとします。末梢の組織にこれまでと同様に酸素を送ろうとすると心拍出量を倍に増やして末梢に送る酸素量を維持する必要があります。
貧血の状態で過労や感染などさらなる心負荷がかかると、心不全が増悪する可能性もあるため心不全患者の貧血の評価は重要です。
最後は、貧血と運動耐容能の関係性についてです。
貧血と運動耐容能の関係性
心不全患者さんでは貧血を有すると運動耐容能は低下すると報告されています。
ワッサーマンの歯車の図を見てもわかるように、運動をするには筋肉に酸素を送り続ける必要があります。
先ほども言ったように酸素を運ぶのはヘモグロビンの役割なので、ヘモグロビンの量が低下した貧血の状態では、末梢の筋肉に酸素を運ぶ量が少なくなりますので、酸素摂取量は低下、つまり運動耐容能が低下します。
心機能や呼吸機能が低下している方であれば、より貧血の影響を受けるので、貧血の合併、程度を評価しておくことは重要です。
最後に
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
今回は貧血と心不全の関係性についてまとめてみました。
運動中の息切れの原因が貧血だという事も実は少なくないのではと思っています。
また貧血の経過が長い場合には、活動量が低下していて、筋力や筋肉量が低下している場合も多いです。
貧血のみを改善するだけでなく、しっかりと運動療法を行い、運動耐容能を少しでも改善させる介入が必要不可欠です。
このブログを見て、担当している心不全患者さんの貧血の合併の有無や度合いを見ることに繋がれば嬉しく思います。
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