運動する前には準備体操ってした方がいいの?
そんなことしても効果ないんじゃないの?
有酸素運動やレジスタンストレーニングが運動療法の中心的な役割を担いますが、その前後のウォーミングアップやクールダウンも非常に重要な意味を持っています。
今回はそのウォームアップやクールダウンについてまとめていきます。
ウォーミングアップ・クールダウンとは
ウォームアップ
主運動に移る前段階の身体活動のこと(準備運動)
クールダウン
主運動から安静に移る前の身体活動のこと(整理体操)
ウォームアップは準備運動とほぼ同様な意味として使われています。またクールダウンは整理体操と同様の意味として使われています。
心大血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインではウォームアップという言葉が使用されています。
このブログではウォームアップ≒ウォーミングアップとして使用させていただいています。
重要と言ってきたウォームアップやクールダウンですが、実は軽視されやすいと言われています。
50歳以上のゴルフを趣味でされている方々のウォーミングアップの時間を調査すると、75%の方はウォーミングアップの時間は5分未満という短い時間であり、残りの25%の方のウォームアップは1分未満しか時間を取っていないと報告されています。
この報告からウォームアップやクールダウンは必要ないと思っている方が多いという事が分かります。
しかし、高齢者、特に心疾患の方ではこのウォームアップ、クールダウンは非常に重要な意味を持ちます。
心疾患患者さんの運動療法プログラム中の合併症を生じた時間について調べた報告では、心疾患患者の運動療法中の合併症の72%はウォームアップやクールダウンの最中に起こると言われています。
ウォーミングアップ、クールダウンは軽視されやすいため、その必要性を伝えることは重要です。
僕はいきなり体を動かすと身体がビックリするという表現で患者さんに伝えるようにしています。
それでは、ウォーミングアップの目的と効果についてまとめていきます。
ウォーミングアップの目的と効果について
ウォームアップは体を安静時の状態から運動できる状態へ移行させる準備時期です。
- 心拍数や血圧の過度な上昇、不整脈の出現のリスクを下げる
- 体温を上昇させる(代謝の反応速度をUP、筋肉への酸素供給量UP)
- 骨格筋の障害予防
安静時からいきなり有酸素運動を始めると、交感神経が急激に活性化するので心拍数や血圧の過度な上昇、不整脈の出現などに繋がる可能性があります。
また、体温を上昇させることで、代謝の反応速度が向上することや酸素がヘモグロビンから離れやすくなることで筋肉への酸素供給量が増えるといった効果があります。
さらに全身の関節を動かし、筋肉や靭帯のストレッチをすることよって骨格筋の障害予防にも繋がります。
ウォームアップという軽い身体への負荷でいつもより息切れが増強していたり、心拍数の過度な上昇、不整脈の出現頻度が増加すると言った場合には、心不全が増悪している可能性があります。
問診や安静時のバイタルサインには異常所見が見られなくても有酸素運動前に軽い負荷をかけて体の状態を確認することはリスク評価にも繋がります。
次は、クールダウンの目的と効果についてです。
クールダウンの目的と効果について
クールダウンは運動によって上昇した血圧や心拍数を安静時の状態に近づけることが目的です。
- 迷走神経反射を防ぐ
- 過度な心拍数の増加や不整脈の出現リスクを下げる
- 翌日の疲労を緩和する(蓄積した疲労物質を排泄する)
運動後、クールダウンの時に生じる可能性が高いのが迷走神経反射です。運動中には交感神経活性が上昇して心拍数や血圧を上昇させます。運動が終われば交感神経活性が低下、副交感神経活性が上昇し、結果として血圧、心拍数が低下します。
運動後に急に運動を停止すると、急に副交感神経活性が上昇してきて血圧や心拍数が低下しすぎて気分不良や意識消失をきたす、これが迷走神経反射です。
さらに運動を急に止めるということは筋収縮が急になくなります。すると筋ポンプ作用による静脈灌流量が急激に低下します。つまり、いきなり前負荷が低下することによって心拍出量が低下することや過度な心拍数の増加、不整脈を発症させる可能性があります。
有酸素運動を急に止めるのではなく、エルゴメータであれば負荷量を落として30秒から60秒程度、ペダルを回してから運動を止めるという事が大事です。
さらに有酸素運動後にストレッチを行う事で、蓄積した疲労物質を排泄する効果があるため、翌日に疲労が残りにくくなります。
有酸素運動後の迷走神経反射は何度も軽減したことがあります。
少し体調が悪いと言っていた方や、夏場の脱水気味であった方、いつもより負荷量を上げすぎるなど色々なことでこの迷走神経反射が生じる可能性があるので、「運動後には急激に足を止めない」ということを伝え意識をしています。
次は、ウォーミングアップ・クールダウンの具体的な方法についてです。
ウォーミングアップ・クールダウンの具体的な方法
ウォーミングアップ・クールダウンの内容については定義がなく、ラジオ体操のような比較的強度が低い運動や全身のストレッチ、有酸素運動以下の強度での運動など色々な方法を取る場合があります。
心大血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインではウォーミングアップとクールダウンとしてストレッチと主運動よりも低強度の有酸素運動の実施が推奨されています。
ストレッチと下肢運動として以下の方法をよく指導しています。
①大腿部・下腿部後面のストレッチ
②足関節の背屈運動
③膝関節の伸展運動
ストレッチの際には息を止めずに吐きながら行うように指導しています。
足関節・膝関節の運動では可動域の最終域まで足首を上げる、膝を伸ばすように指導しています。
最後に
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
「有酸素運動よりも大事な運動」と患者さんには伝えることもあります。
高齢者や心疾患患者さんでは交感神経と副交感神経の切り替えに時間がかかったり反応が大きすぎたりするので、なおさら大事です。
病院だけでなく、自宅で有酸素運動を行う前後でも軽い体操やストレッチといったウォームアップ、クールダウンは必ず行うよう指導しています。
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